「白い日が…来ます…。」

「あんだ、雪でも降んのか。」


「…そうですね。雪が降ったら遊びましょうね、火神君。」

「よし。」



何に対しての「よし」かは分からないが、とりあえず置いておくことにした。

ひとつ言えることは、この地域で3月の中旬に雪が降ることは異常気象以外には無いだろう。




まあそれでも、来るときには来るのだ。


白い日は。





さあ迎え入れろ、

その結末は明確だ。






「お返しって、あげるべきなんでしょうか…。」

先月の今日、恋人たちが無条件でいちゃつく日。



その日に、彼から箱入りのチョコレートを貰った。

確かに量はあったものの、正直、簡単に食べてしまった。

しかし数日で食べたせいか、そのあと少し肌が荒れたのは内緒だ。

女性でもなければ直ぐに治ったのだから、気にすることではない。



それはまあ置いておくとして、自分もあげたのだ。彼に。

(正確には投げつけたのだが、)渡したのだ。チョコレートを。



普通はバレンタインに愛を贈り、ホワイトデーに愛を返される。

もしくは、バレンタインに愛を贈られ、ホワイトデーに愛を返す。



では、二人で同時に渡した場合にはどうするべきなのだろうか。





「火神君。」

「あ?」


「…………………はあ。」

「人の顔見て盛大にため息吐くなよ。」

「考え事してたんです。」

「じゃあなんでオレ呼んだんだよ。」

「いいじゃないですか呼んだって。」

「いや意味わからん。」

「意味なんか無いですから。」


会話自体の目的も何もない会話が続く。

ぐだぐだと話して居れば、それだけ時間も無駄に過ぎて行く。

頭の中の困りごとは全く片付かない。





「あ。」






黒子がいきなり声を上げれば、火神は怪訝な表情で黒子を見た。

それに黒子は、解決しました、と返した。



「何が。」

「問題が、です。」


「何の。」

「白い日のことです。」


「………そっか、よかったな。」

「はい。」



全く意味など分からないが、解決したならいいか、と火神は黒子に言葉の意味を聞かなかった。


それに聞いておけばよかったと後悔をしたのは、白い日の次の日に、黄瀬からの電話を受けた時だ。





+++





白い日当日の夕方。

黒子は海常高校の門の前に居た。


黄瀬はそんな黒子の姿を部活終了後に見つけると、体育館からそれこそ飛ぶように走って来た。

後ろでは笠松の怒号が聞こえる。



「く、黒子っち!どうしたんスか!?」

「黄瀬君。」


ぜえぜえと息を整える黄瀬を、黒子はじっと見つめた。

それに黄瀬が困ったように首を傾げれば、あのですね、と話しかけた。



「僕、考えたんです。」

「うん?」


「その結果、ホワイトデーはバレンタインデーとは反対なことを3倍でする日だと思ったんですね。」

「…うん…?」


「つまりですね、僕はバレンタインに君にチョコを投げたわけですよ。」

「うん。」


「だからまあ、逆に君にチョコを投げられれば良いんじゃないかと思ったんですよ。」

「ぇええええどうしてそうなったのオレが黒子っちにそんなこと出来るわけ、」


「でもまあ君からチョコを投げつけられるだなんて非常に腹立たしいことだと思いまして。」


「…………あ、そうスか。」



「そこで、僕はさらに考えました。」

「……うん。」



黄瀬は嫌な予感しかしないが、とりあえず、聞かないわけにいくまい、と覚悟を決めた。





「………何を?」





にこりと黒子は笑った。

そんな黒子の右手はぐっと握り込まれている。





「君に、3倍の大きさのホワイトチョコレートを投げつければいいのだと。」






さも名案だと言わんばかりに細められている黒子の瞳は、逃げようとする黄瀬に既に狙いを定めていた。




「……あの、黒子っち、ちょ、待とうか。さすがにその大きさはなげつけられたら痛いとおも、」


「おにはーうちー!」



「ぇえええそこは逆にしなくていいとおも、うっ!」




が、と額に当たったものは、ほぼ直方体の形のホワイトチョコレート。

当たった衝撃で、微妙に額に白いチョコレートが付いた。




「ちょっ、黒子っち、ま、タンマタン、」


「ふくはーそとー!」


「だからなんでそこまで逆にする!?」



頑張って避けようとしても、高速で飛んでくる白い物体は目が追えないらしい。

かこん、といい音がまたひとつ額で鳴った。












鬼は内、

福も内、

君以外は全部内。


それだって全く問題なかった。




内だろうと外だろうと、君は居てくれるんだもの。


(それはきっと、これからもずっと!)





+++


ホワイトデーに大遅刻ですすみません。