欲しいものがあった。

手に入らないものだった。

それならと余計に欲しくなった。


黄瀬涼太は、そういう人間であった。








恋愛パターン








黄瀬涼太は、黒子テツヤのことが好きである。



「黒子っち、付き合って下さい。」

「申し訳ございませんが丁重にお断り致します。」

申し訳ない、と言いながら、ちっとも申し訳なさそうに見えない彼の表情。

むしろ蔑んだ目で見られているような気がするが、そんなところも彼のチャームポイントだと思う。


「てゆか黒子っち、敬語でももっと崩して使ってよ。距離感じるっス。」

「距離を置きたいと思ってわざとやっているものですから。」

「それを口に出して言っちゃう黒子っちが好きっス。」

「そうですか。精神科に行かれては如何でしょうか。」

「ああ、オレのこと心配してくれるんスか?」

「ええ、君の脳内構造はさぞ面白可笑しいのでしょうから。」

話しながらも、彼は一度もオレと目線を合わせようとしない。

彼の目線は、自分の手元の小説から動かない。




教室の片隅。窓際の一番後ろ。そこが彼の席。

昼休みには、必ずと言っていほど読書に励んでいる彼の前の席に座る。

そうすれば、毎回毎回何で来るんですかと言われる。

会いたいからっス、と言えば、僕は顔も見たくありませんでした、と返される。

嫌そうに顔を歪めた彼が珍しくて、思わず笑ってしまう。




「黄瀬君。僕は本が読みたいんです。」

「読んでて良いスよ。オレは黒子っち見てるから。」

「人から見られていると読書もし難いんですよ。」

「気にしないで。」

「気になります。」

ため息をついて本を閉じた。

ようやっとオレと喋ってくれるのかと思ったら、席を立ってしまう。


「あれ、黒子っちどこ行くの?」

「青峰君のところです。」

「あ、なら、オレも、」

「来ないでください。」

すいたすたと歩いて教室を出ようとする彼の背中。

それに付いて行こうと席を立つと、思い切り睨まれた。



「…どうして、君も、来るんですか。」

はきはきと言葉を区切って言われる。

無表情と言う言葉とは無縁な程に、不機嫌そうな顔が向けられた。


「だって黒子っちと一緒に居たいっスもん。」

「迷惑です。」

女の子ならば簡単にコロッといってしまいそうな笑顔で言っても、ざっぱりと切り捨てられる。

うん、そんなところも大好きだ。




「黒子っちはバカっスねえ。」

「君ほどじゃありませんよ。」

「いやいやいや、」

「何なんですか気持ち悪い。」

彼の視線はあくまでも前に向いていて。

それでも辛辣な言葉を頂いた。



ばか。


ばかな黒子っち。






(はやく、オレのこと好きになればいいのに!)








■□■






欲しいものがあった。

手に入らないものだった。

だったらいっそいらないと思った。

黒子テツヤはそういう人間であった。







恋愛パターン








黒子テツヤは、黄瀬涼太のことが嫌いである。



「黒子っち、付き合って下さい!」

「申し訳ございませんが丁重にお断り致します。」

申し訳ない、と言いながらも、内心ではそんなこと1mmたりとも思っていない。

当然だ。そのように思わなければいけない理由などないのだから。


「てゆか黒子っち、敬語でももっと崩して使ってよ。距離感じるっス。」

「距離を置きたいと思ってわざとやっているものですから。」

「それを口に出して言っちゃう黒子っちが好きっス。」

「そうですか。精神科に行かれては如何でしょうか。」

「ああ、オレのこと心配してくれるんスか?」

「ええ、君の脳内構造はさぞ面白可笑しいのでしょうから。」

話しながらも、僕は一度も彼と目を合わせない。

どうしてわざわざ読書を中断してまで彼を見なければいけないのかがわからないからだ。



教室の片隅。窓際の一番後ろ。そこが僕の席。

昼休みには、必ずと言っていほどに読書をする僕の前の席に彼は座る。

何で来るんですかと嫌味たっぷりに言っても、彼は気にしない。

会いたいからっス、と言われても、僕は顔も見たくありませんでした、と返すしかない。

そんな僕の顔を見て彼は笑うのだから、やはり脳内がおかしいとしか思えない。


「黄瀬君。僕は本が読みたいんです。」

「読んでて良いスよ。オレは黒子っち見てるから。」

「人から見られていると読書もし難いんですよ。」

「気にしないで。」

「気になります。」

はあ、とこれ見よがしにため息をついて本を閉じた。

瞬間、彼が何かに期待をかけたのが分かった。

それを見るのも面倒くさくて、さっさと席を立つ。


「あれ、黒子っちどこ行くの?」

「青峰君のところです。」

「あ、なら、オレも、」

「来ないでください。」

青峰君のところで本を読ませてもらおうと思っているのに、どうして君が来るんですか。

馬鹿ですか。馬鹿なんですか。ああ馬鹿でしたね!

全力で叫びたかったが、なんとか抑えた。



「…どうして、君も、来るんですか。」

不機嫌ですと表情に出して言ってやっても、彼は堪えない。

にこにこにこと只管笑っているだけだ。正直気持ちが悪い。



「だって黒子っちと一緒に居たいっスもん。」

「迷惑です。」

対女の子用の笑顔を向けられても、残念ながら僕は男。

きゃあかっこいいなんて言ってやらない。


「黒子っちはバカっスねえ。」

「君ほどじゃありませんよ。」

「いやいやいや、」

「何なんですか気持ち悪い。」

唐突に人をバカ呼ばわりして、何がしたいと言うのか。

これだけ蔑まれても笑顔を浮かべる彼の方がよっぽどおかしいと思う。






なんて、


なんて、ばかなひと。






(はやく僕の前から居なくなればいいのに!)







相反する物語







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白黒はっきりしているひとたち。