「……もうホント、先輩どう思うっスか。もうツンデレの領域を超えてるっスよ。緑間っち真っ青っスよ。」

「とりあえずオレはオレの時間を今すぐ返してほしいんだが。」

だってえぇ、と廊下にある、丁度頭の高さのロッカーに頭を着けた後輩を見る。

今は昼休み。

さてメシ食べて昼寝でもしようか、なんて思っていたのがいけなかったのか。

3年の廊下で携帯を握りしめて訴える後輩を見ながら、笠松幸男は額に掌を当てた。








ホントはきたかないが、


仕方ないから聞いてやっいるオレは心底えらいと思う。








「黒子っちがいつまでたってもオレの愛に答えてくれないんスけどどうしたらいいと思うっスか。」

「知らねえよオレ的には上級生の廊下に堂々と来るお前の方がどうかと思うよ。」

「ああでももうそんなトコも可愛いとか反則っスよね!」

「いや聞けよ人の話。」

「黒子っちの笑顔を妄想するだけでオレ白飯100杯はいけるっス!」

「思い出すじゃなくて妄想な辺りがお前の可哀想なところだよ。」

噛み合っているようで噛み合っていない二人の会話を、廊下を通る人たちはなんだなんだと見て通る。


オレは何もしていません。この黄色い後輩がバカなんです。

オレまでまとめて変なものを見るような目で見るのはやめてください。


携帯を開いてはにへらと笑った後輩にとりあえずイラっときたのでぶん殴っておく。

こいつの待ち受けは恐らく間違いなく絶対確実に、誠凛の透明少年だ。

しかも隠し撮りだろう。

なにこいつストーカーか。ストーカーなのか。後輩がストーカーだなんて嫌すぎる。




「…先輩。人を憐れむような目で見るのやめて欲しいっス。」

「いやあ…お前って可哀想という言葉の代名詞のような男だよなあと…。」

「酷い!」

それなら黒子っちの恋人の代名詞がいいっス、と握りこぶしを振り上げて黄瀬は言う。

それを名乗る前にお前はまずは堂々とお友達宣言が出来るようになったらどうなんだ。

そう言いかけたものの、目の前の黄色が哀れすぎたので言わないでおいた。



しばらく放っておけば、黄瀬が突然真剣な顔を作る。

なんだなんだマトモにしていればモデルらしく見えるじゃないか。

そんなことを思っていれば、黄瀬はやっぱり拳を作って言った。



「先輩、ちょっと黒子っちの魅力を語っていいっスか。」

「なんでだよ本人に言えよそれは!」

真面目な顔をしたから何かと思えばコレだ。

可哀想なイケメンというのはこういう人間のことをいうのか。

またひとつ、どうでもいいことを学習した。



「ちょっと誰かに言いたいんスよ!本人に言ったら本のカドで頭殴られたし!」

「知らねえよ火神にでも聞いてもらえ!」

「火神っちが黒子っちに惚れたらどうするんスか!」

「ああもう案外惚れてんじゃねえの?」

面倒くさくなってそういえば、黄瀬は自らの手で顔を覆って、目に見えたように落ち込んだ。

自分でも何気にそうかもしれないとでも思っていたのだろうか。



ううう、と唸っていた黄瀬が少しだけ顔を上げると、違う、と呟いた。

「違う。」

「何が。」

「火神っちは黒子っちのことそういう目で見てないっス!」

「いやわかんねーぞー。」

笑いながら言えば、あ、だか、ぐ、だか変な音を出して黄瀬は膝を抱えてしゃがみこんだ。

やばい。こいつそろそろ本気で泣きだした。

なんかもういい年してなんでこいつこんなに泣くんだろう。



子供のようにずびずびと泣く黄瀬を無視して、自分のズボンのポケットから携帯を取り出す。

かこかことアドレス帳から目当ての名前を見つけてメール作成。

今の時間に送って返信が来るかは謎だったが、この時間はたいていどこの学校でも昼休みだろう。

授業中に鳴って教師に怒られるという事態もないだろうしまあいいか、と考えて本文を打つ。



宛先は黒子テツヤ。

以前、「黄瀬君がバカやらかしたらお手数ですが連絡ください」と言われてもらったアドレス。

ここで「黄瀬君が浮気したらメールください」とかではないあたりがあの少年らしい。



そんな過去のことを思い出しながら作成した内容は簡潔



件名ヘルプ
本文黄瀬がお前が原因で泣いてる。
目の前でうぐうぐ泣いている黄瀬をどうしようかと悩む。 本当にどうしようかどうしたらいいかものすごく困る。 正直思い切り蹴飛ばしてやりたい気分だが、忘れてはならないのがここは学校の廊下。 蹴り飛ばして余計に泣かれたらどうする。 後輩をいじめている先輩の図が完成してしまう。 それは全力で勘弁願いたい。 メールの返信で、「黄瀬君に好きだと伝えてください」的なことが来ればいいのにと本気で思う。 そうすればこのバカに見せて泣きやませて上機嫌にすることが出来るだろう。 そんなことを考えていれば、手の中の携帯が光る。 マナーモードのために音もバイブも消えているが、光は消えないものだ。 そのメール相手は先ほど自分が送信した相手。 意外にも返信が早く来たことに驚きつつも、期待を持ってメールを開ける。 そうすれば、やはり簡単に書かれたメール内容にがくりと頭を下げた。 なに、こいつら、ほんと。
件名すみません
本文ムービー撮ってもらえませんか。
そういえば前会った時、「黄瀬君が泣いているところが好きです」とSっ気たっぷりな発言をしていたことを思い出す。 自分で撮れよ!と思いつつ、何となくカメラを起動させる。 シャッター音を消すためにスピーカー部分を指で塞いだ。 それでも小さく鳴った音には、ずびずびと涙を流す黄瀬は気づかない。 それをそのまま送信すれば、しばらく時間を置いて、「ありがとうございます待ち受けにします」と返事が返ってきた。 モデルをしているの写メでもバスケやってる写メでも普通にしてる写メでもなく、あえて泣き顔を待ち受けにする。 そんな黒子の心情が理解できず、しかし理解したくもなかったため、自分のデータフォルダから先ほどの黄瀬の写メをそっと消した。 「…………黄瀬。そろそろウザイから泣き止め。今だけお前に同情してやる。」 厄介な相手に惚れた後輩の頭を教科書で軽く叩くと、そっと窓の外を見る。 空の水色が先ほどのメール相手と重なって、深い深いため息を吐いた。 泣き顔でも待ち受けにしてもらえるくらいには愛されてんだ。お前。 それを言わなかったのは、迷惑掛けられた分のちょっとした腹いせだ。 (頼むからオレを巻き込まないでくれ) +++ 思いのほか笠松さん視点が楽しすぎました。 笠松さん大好きです。