「火神くん。」

「あー?」

「ちょっとこの駄犬をその辺の沼に捨ててきてもらえませんか。」

「悪いが黒子、沼はそんなあちこちにあるわけじゃねえ。」

「じゃあゴミ捨て場。」

「よしまかせろ。」


駄犬が捨て犬にされそうです。














「黄瀬君本気でうるさいですうざいです。」

「なんで!?オレ今静かにしてたよね!?」

「なんかこう、存在自体が鬱陶しくてやかましいとでも言うんでしょうか…。」

「オレの存在全否定!」

ぎゅうう、と背後から黄瀬は黒子を抱えるようにして抱き締めた。

抱き締められている黒子からしたら、暑いと重いと痛いの3拍子揃って、とても表情が歪んでいる。



「黄瀬、ほら、黒子困ってんじゃねえか。離してやれ。」

「困ってないっスよ。黒子っちは照れ屋なんスもん。」

「いやなんか直にお前をぶん殴りそうだから。見てるこっちが怖ェから。」

「あ、黒子っち、ちゅーならいつでも大歓迎っすよ!」

噛み合わない黄瀬と火神の会話。

その間にいる黒子としては、もう一刻でも早く家に帰りたい。



「…黄瀬君、いい加減に離れないと、君と火神君がデキてるって噂を全国に広めますよ。」

「なんで!?」

「オレ関係ねえ!」

こいつとは嫌だ!と見事にハモった二人を見て、黒子は満足げに腕を組んだ。


「嫌なら今すぐ離してください。こんなこともあろうかと君と火神君のツーショットを写メっておいて正解でした。」

「ちょぉおおいつの間に撮ったんスか!っつかこんなことってどんなこと!?」

「黒子待てオレは無関係だ!」


「誰が関係あろうとなかろうと、僕には関係ありません」


黄瀬君、嫌なら今すぐ直ちに即座に離れてください。

ぴしゃりと黒子がいい笑顔で言い放てば、黄瀬はおずおずと手を離した。





黒子が笑っているときは非常に危険だ。

何をやりだすかわからない。


否、何をやっても逆らえない





「…黒子、マジでオレとこいつのツーショットなんか撮ったんか?オレ記憶ねえぞ。」

火神が怪訝そうな顔で聞けば、黒子は、嫌ですねえ、と言って続けた。


「僕の特技忘れたんですか?」

「能力の無駄遣いだ!」

「有効活用と言って下さい。」

火神は、ふふん、と機嫌良さげに言う黒子の手の中の携帯を見た。


できればアレを取りあげて中身を確認したい。

多分、というか絶対、やろうと思えば確実にできる。

体格差も力の差もあるのだから。


ただしやったあとの自分の命の保証はなくなるのだろう。

火神はそこまで考えて、寒くもないのに身震いをした。




「……黒子、その写メ消せ。」

「え、なんでですか。」

「いやなんでじゃねえよ!コイツとのツーショットなんざ気色悪いからだよ!」

「わかりました。ではお二人の顔の間にハートマークを付けて加工しておきますね。」

「お前は何にも分かってねえ!」

「火神っち酷い!そんなにオレのことが嫌いなんスか!」

「黄瀬は喋んなうぜえ!」

なんだこのボケとバカのオンパレード。

痴話喧嘩だろ。痴話喧嘩なんだろ。なんでオレを巻き込むんだよ。


火神はツッコミ疲れて肩で息をしていた。






「もー、やだなあ火神っち、冗談に決まってるじゃないっスかー。」


黒子っち以外の人とツーショットの挙句にハートマークなんて嫌に決まっているじゃないっスか、と黄瀬はけらけらと笑った。

それに火神は、あ、そ、としか返さない。返せない。


そして黒子の方を見れば、きょとりと大きな目を瞬かせていた。

はたりはたりと瞬きを繰り返すと、え、と呟いた。



「僕は本気でしたが。」

「……え?」

携帯をいじっていた黒子の手元を恐る恐る火神と黄瀬が覗きこむと、そこには「送信完了」の無慈悲な文字。

二人は全力疾走で現実逃避したくなったが、そういうわけにもいかないらしい。




「……黒子っち、ちょーっと聞いていいっスか?」

「いやです面倒です。」

「よし黒子今すぐ質問に答えろさもなくば黄瀬にお前を持ち帰らせるぞ。」

「喋ります。」

「そんなに嫌なんスか!?」

「むしろ嫌がられないとでも思っていたんですか。」

う、と嘘泣きをした黄瀬に、黒子は一言うざいですと言い放った。

そのまま漫才でもしだしそうな黄瀬と黒子を、火神は二人の頭を鷲掴みにすることで止めさせる。


コレ以上話題を逸らさせてたまるか。

疲れる。本当に疲れる。




「……で、黒子、本題だ。」

「…はあ。」

火神は決心したかのように、すう、とひとつ息を吸った。

出来れば正解したくはない答え合わせだ。





「お前、今、なにやった?」




聞けば、黒子はとてもいい笑顔で笑った。

可愛い。けれど、今はそれに気を取られるほど余裕はない。




「さっき言った通りに写メを加工して、「オレたち付き合ってます」の文字も入れて、皆さんに送信しました。」



火神君が僕に送ってきました、という文章と共に。

誠凛の人たちと青峰君たちと、それから笠松さんにも。

僕的にはとってもいい感じに加工出来たんですよ。


ふふ、と笑う黒子はそれはもうとても可愛らしくて。

それでもそれに注目できるほど、火神も黄瀬も神経はず太くなかった。





次の日の部活で先輩方に何を言われるのかを想像して、火神と黄瀬は盛大にため息を吐いた。

黒子はその後ろで、一人上機嫌でとてとてと歩いている。








「…火神っち。」

「…あ?」


「……絶対に否定しておいてね…。」

「……ああ…。」





ぶっちゃけ、オレは巻き込まれただけだ。

それを言いそうで言わなかった火神は、そのかわりにもうひとつため息を吐いた。




(さらば、オレの幸せたち。)






それなのに手放したいと思えない、


そんな毎日。






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実際は火神と黄瀬があんまりに仲が良くて嫉妬したりしていたんなら可愛いですよねという。うん。

言わなきゃわからないですね思いっきり後付けですごめんなさい。