泣いて欲しかった。

普段からふざけてばかりの彼は、本当の涙を忘れてしまうのではないかと思ったから。


泣かないで欲しかった。

彼の涙を見るたびに、僕には彼が救えないのだと、思い知らされている気分になったから。





泣いて欲しかった。

普段泣かない彼が、涙の流し方も、涙の熱さも忘れてしまうのではないかと思ったから。


泣かないで欲しかった。

彼が涙を流すたび、オレでは君を支えるには役不足だと、誰かに言われている気がしたから。







「きせくん。」





「くろこっち。」







深い深い海の底、君の声だけが、ぽとりと心に落ちてきた気がしたの。






いつかいつか、この涙が混ざるほど、

あなたの傍に行けるようにと。





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温かい涙は、冷たい真珠に温度を分けていくのです。