泣いて欲しかった。 普段からふざけてばかりの彼は、本当の涙を忘れてしまうのではないかと思ったから。 泣かないで欲しかった。 彼の涙を見るたびに、僕には彼が救えないのだと、思い知らされている気分になったから。 泣いて欲しかった。 普段泣かない彼が、涙の流し方も、涙の熱さも忘れてしまうのではないかと思ったから。 泣かないで欲しかった。 彼が涙を流すたび、オレでは君を支えるには役不足だと、誰かに言われている気がしたから。 「きせくん。」 「くろこっち。」 深い深い海の底、君の声だけが、ぽとりと心に落ちてきた気がしたの。 いつかいつか、この涙が混ざるほど、 あなたの傍に行けるようにと。 +++ 温かい涙は、冷たい真珠に温度を分けていくのです。