寝る直前になったら電話してね、と言われた。

なぜですか、と聞いたら、内緒、と頬を赤らめた彼は口元に指を当てた。


眠い。眠い。



voice heard over the telephone




短いコール音。

2回繰り返された後、はい、と声が聴こえてきた。



「あ、黒子っち?」

「はい。どうしたんですか?」

寝る直前に電話をかけて欲しい、なんて。



「えーと、ごめんね。用はほとんどないんだ。」

「…はあ、そうですか。」

では、その僅かな用はなんですか。

そう言えば、電話口からは沈黙しか流れてこない。



「…黄瀬君?」

「…あのね、黒子っち。」

「はい?」

なんですか。

正直、僕はもう眠いんです。

寝てしまいそうなんです。



ほあ、とあくびがつい漏れてしまうと、電話の向こうから少し笑ったような気配がした。

あのね、と呟くように聴こえた彼の声。




「おやすみ、黒子っち。オレは明日も黒子っちが大好きっスよ。」

「………え、」

何をいきなり、と言おうとした声は、それじゃおやすみ!と荒々しく告げられた言葉によってかき消された。

携帯の電話口から聴こえる音は、もう既に電話が切れたことを知らせるものに変わっていた。





「…ばかじゃ、ないんですか。」

携帯をベッドに放って、そこに自分の体も投げ出した。

もふ、と柔らかい感覚に包まれても、先程までの眠気は無くなっていた。





「どうするんですか。目が冴えてしまったじゃないですか。」

ああもうなんてずるい人。

言いたいことだけ言って切ってしまうなんて。

こっちはおかげで眠れそうにないと言うのに。



自分の顔のすぐ横にあった携帯を再び手にする。

着信履歴を開いて、一番上の相手にかけた。


コール音が今度は5回繰り返される。

切れてしまうのではと思った矢先に繋がった電話からは、戸惑ったように、はい、と声が聴こえた。



「…黄瀬君?酷いんじゃありませんか。言いたいことだけ言って切るだなんて。」

「…………。」

「……僕は、明日も明後日も、その先まで君のことが好きなのに。」

「…え、く、」

「では、おやすみなさい。」

「ちょっ!」

相手の返事を聞かずに、赤い電話の書かれたボタンを押す。

ぷつ、と簡単に通信が途絶えたそれは、ただの冷たい機器にすぎないのに。





「ざまーみろ。ってんです。」


きっと慌てて掛け直してこられるのであろう携帯の電源を落として充電機に繋ぐと、ぱちりと部屋の電気を切った。

真っ暗になった部屋の電気の代わりにベッドの横のスタンドの電源を入れれば、その光が淡い黄色で、すぐに消した。



きっと明日の朝、自宅の玄関の前で待っているであろう彼を想像して、少しだけ笑みが零れる。



もふ、と布団を頭の上にまで引き上げると、自分の耳に手を当てた。

うっそりと目を閉じれば、おやすみ、と言った彼の声が聴こえる。



おやすみなさい。



世界に次の日が生まれる限り、明日の僕は、明日の君を好きになる。





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たまには殺伐としていない2人です。

のんびりほっこり。