空気の成分人間の体内の成分。 そんなものを改めて考えてみると、ああなんだかとても似ていると思えてしまうの。 成分表 「黒子っちっにとって、青峰っちと火神っちって、どんな存在なんスか?」 黄瀬の部屋で二人でのんびりしていたら、神妙な顔で黄瀬の口から出てきた質問。 答えやすいような答えにくいような面倒くさいような。 黒子はため息を飲み込んだ自分を褒め称えてやりたい気分だ。 「……なんですか、いきなり。」 「だって!」 だって、と小さくもう一度呟くと、黒子っちあの二人のこと大好きじゃないっスか、と黄瀬は続けた。 それに黒子は、抑揚もない声で、ええ、と返した。 「とても好きですよ。ふたりとも。」 「それはもちろんわかってるんスけど、それが、なんか、なんか、その、…ですね…。」 「………。」 「……なんか、オレより、好きなのかなあって…。」 思って、と呟くと、黄瀬は居た堪れなくなったのか、座っている足元を手でいじっている。 黒子はそれを見ると、ついつい可愛いと思わずにいられない。 自分の様な奇矯な人間を好きだと言ってくれる人。 図体はやたらと大きいくせに、金色の髪にはきっと犬耳が良く似合う。 目の前の彼はいつだって、自分にたくさんの気持ちをくれる。 両手で持っても抱えても背負っても溢れだしてしまうだろう愛情を。 それなりに返しているつもりではあるが、そこはやはり表現の差。 そのせいで黄瀬は不安になってしまうのかもしれないと自覚はしている。 「…ねえ、黄瀬君。」 黄瀬の近くに膝をついて、さらさらの髪を指で軽く梳く。 そうすれば、控えめに上げられた暖かい色をした眸には自分が映る。 「僕にとって、青峰君も火神君も、空気、酸素同然なんです。」 それがなければ息が出来ない。 それがなければ生きていけない。 それでも、その存在をいつだって確かめることはない。 気づけば、ああそういえば必要だったかと思い、また忘れる。 そうしてまた無意識に必要としているのだ。 「…じゃあ、オレは、黒子っちにとってオレは、なんなんスかね…?」 ああ、ここで冗談でもアルゴンとか良くわからない物質を言われたら、オレ、泣くかも。 そんなあってもなくてもいいような存在だと言われたら、本気で泣くかもしれない。 そんなことを思っていれば、コレですよ、と黒子は傍にあったペットボトルを揺らした。 ちゃぷん、と音を立てて、中のお茶は揺れている。 「……飲み物、スか…?」 「水、ですよ。」 広い意味でね、と黒子は付け加えた。 「僕は今この話している瞬間も、空気は必要だけれど、水は別に、なくても大丈夫なんです。」 今日の残り時間くらいなら、取らなくたって多分平気でしょう。 「それでも、何日も何日も水分を摂らなければ、僕は死んでしまう。」 喉が渇いて体中が干からびて、僕はゆっくりゆっくり死んでゆく。 「だからといってたくさんの水の中に放り込まれれば、僕は息が出来なくて、やっぱり死んでしまう。」 空気が欲しくて、それでも与えられなくて。 苦しさで浮かんだ涙と水とが混ざって、死んでゆく。 「きっと君は僕にとって、そういう存在だと思うんです。」 そう言って黒子はペットボトルのふたを開けると、一口こくりと飲んだ。 これじゃ、いけませんか? 黒子が濡れた口元を少しだけ緩めて笑うと、その笑みに釘付けになってしまう。 (ああ、もう、黒子っちはずるい!) 「…ねえ、黒子っち。」 「なんですか?」 「水について、ひとつ言い忘れていること、あるんじゃないスか?」 「……さあ、どうでしょうかね。」 すいと逸らされた視線。 先ほどまで孤を描いていた唇は、少しだけ拗ねたように尖らせていて。 それだけで十分、自分の言いたいことは伝わっているのだと自惚れさせてくれる。 「黒子っち、やっぱり大好き。」 「はいはい。」 「本当はオレ、オレにとっては、空気も酸素も水も何もかもすべて、黒子っちならいいのにって思うんスよ。」 「それはまた随分と。」 「うん。でもね、無理だって、わかってるから。」 オレの世界がたとえ君だけで構成されようと、 君の世界はオレだけでは構成されないだろうから。 だから、 「黒子っちも、オレの水になってください。」 そして、いつかオレを溺死させて。 ねえ、人間の体の何十%が水でできているかなんて、 その中の少しが失われるだけで人間が死んでしまうだなんて、 君が知らないはずないよね。 「大好き。」 (いつかいつか、オレで溺れて死んでしまえばいいのに!) +++ 青峰と火神は、黒子にとって無意識に必要と思うもの。 黄瀬は、意識した上で必要だと思うもの。 そんな関係が大好きです。