ぱちり、ぱちり。

はぜたソレは、綺麗な色をしていた。





空色松葉





「あ、強くなってきた。」

バチバチ、と強くなった火花。

火が宙に舞っているような気がする。



「僕のは、もしかしたら、不良品かもしれませんね。」

ジジ、と鈍い音を立てる玉。

光を放つそれは、火花を散らせることもなく、ただゆらりゆらりと揺れていた。



水色の髪が、白い肌に落ちた。

何も言わずにそれを耳にかけた黒子の眸が、ちらりと揺れているように見えた。




「大丈夫だよ、きっと、つくよ。」

黄瀬はパチパチと音を立てる自分の線香花火を左手で持って、願うように口に出してみた。

自分にとってはほんの短い時間だったけれど、きっとそろそろ、この花火の滴は落ちてしまう。


それでも気にせず、彼の手元ばかりを見ていた。

少しでも動いたら落ちてしまう。

そう思うせいで、余計に揺れていた。



「オレが黒子っちの手を揺れないように支えたら、きっと、その所為で揺れて降ちちゃうね。」

「君のお世話にはなりませんよ。」

「まったく、素直じゃないんだから。」

「素直にお断りしているんですよ。」

言いながらも、視線は二人とも、静かな線香花火に向いていた。

二人の眸の中で、同じ光が揺れた。





「僕のが点く前に、君の方が落ちてしまうかもしれませんね。」

「大丈夫。もうちょっと待ってる。」



ぱちり、ひとつめの光が舞った。



「きれいですね。」

「そうだね。」



ぱちり、ふたつめの光が飛んだ。



「きっと、触ったら熱いんでしょうね。」

「温かいのかもしれないよ。」




ぱちり、ぱちり、ぱちり。

続けて音が鳴って、光が跳ねた。

地面に吸い込まれていくように、光の粒は、落ちては消えた。




「点いてきたね。」

「そうですね。」

細かく装飾された炎が空中で爆ぜる。

背景の闇からぼんやりと浮かび上がって、そこだけが明るい。




それでも、黄瀬の手元にあった線香花火は、少しずつ火花の量が減った。

少しずつ少しずつ静かになっていく、音と光。

ぱち、ぱち、と遠慮がちに止まろうとしているその火が、黄色の眸に反射した。




「もう少しで、落ちちゃうかな。」

「まだ大丈夫です。」

まるで自分のことのように間髪いれずに返って来た返事に、そうだね、と返した。

左手で持った頼りない紙状のひもが、かさりと音を立てた。




「黒子っちの、派手に爆ぜてるね。」

「きっと遠くから見ても、分かりやすいですね。」


「触ったら、熱いんスかね?」

「温かいのかもしれませんね。」


パチパチと勢いがある花火の横で、少しずつ少しずつ静かになっていく花火がある。

ゆっくりとゆっくりと、消えるための準備をしているようだ。



黒子はそっと目を瞑ると、右手に持った紙の持ち手を、少しだけ強く握った。


ちらり。

困ったように光が揺れた。




視界を瞼の裏に隠していた黒子の耳へ、もうだめかな、と呟いた黄瀬の声が響いた。

だんだん爆ぜる間隔が開いて行く、小さな光。



それでも黄瀬は、黒子っちすごく温かそうだね、と笑った。

そのほんの少しあと、光の中心に居た丸い赤色が、融けるようにして、地面に吸い込まれていった。

音もなく、光もなく、ただただひっそりと。




「だめだった。」




そう言ってやっぱり笑った黄瀬に、黒子はそっと手を伸ばした。

燃え尽きた紙くずを持つ手とは逆の手を握る。

生温かい温度が自らの手に伝わってくる。




「この光が落ちたら、僕も君も、一緒に終わりですね。」

だから、まだ大丈夫。



控えめに、静かに、それでも、黄瀬と同じように笑った黒子の肌には、オレンジ色がきれいに映っていた。








ぱちり。



この光がおちたとき、ぼくたちふたりは、この手を離さずに居られるのでしょうか。









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冷たくも温かくない体温は、ただそこに居ることしか、感じ取らせてはくれませんでした。