「…………オイ、火神、」

「そう怒んなって、まだ寝る時間でもねぇしいいだろ。」

「…………はあ。」


突然に携帯に来た電話。

それに出たことが間違いだったのだ、と、青峰大輝は思った。



夜八時、公園にほぼ強制的に収集がかかりました。





  公園





「で、何で呼び出した。」

青峰が公園の柵に腰掛けながら火神に聞いた。

そうすれば、微妙な表情で火神は笑った。



「予測つかねえ?」

「……いやまあ、今お前の鞄引っ掴んで離さないヤツが原因なんだろうなー、とは思う。」

「大正解。」



そう言った火神の鞄のひもを掴んで離さないのは、身長の高い男子高校生。

海常高校バスケ部のエースであり、モデルであり、


黒子テツヤの恋人である、黄瀬涼太。






「……よし、捨てて帰るか!」

「え。」


言うが早いか、青峰は火神の鞄を掴んでいた黄瀬の手をべりっと剥がし、その首根っこを掴んだ。

そしてそのまま公園の出口目指してずるずると引きずって行った。


「ぁあぁああ火神っち助けてぇええええ!」

「………うわあ…。」


黄瀬の悲鳴と言うのか泣き声というのか、情けない声が公園に響いた。


このまま放っておいたらオレたちは警察に捕まるんじゃないだろうか、なんてことを火神は考える。

いやでも捕まるにしたって罪状はなんだ。

とりあえず誘拐ではないだろう。

こんなうるせえ人間、心の底からいらない。



「火神っちぃいいい!」

「…あー、へいへい。」

ぽてぽてと歩いて、青峰の肩に手を置いた。

勘弁してやれ、と言えば、案外簡単に黄瀬の首根っこを解放した。

聞きわけは良いらしい。



「…黄瀬がな、相談があるんだと。」

「そうか、頑張れ。」

じゃ、と右手を挙げて去ろうとする青峰の服のフードを掴んで引っ張った。

うぐ、と息がつまる声がしたが、気にしないでおこうと思う。



「オレ一人じゃどうにもならねえだろうからお前を呼んだんだろうが。」

な、と言えば、納得したのか諦めたのか、青峰は今度はブランコに腰掛けた。

デカイ男とちいさなブランコ、うん、似合わない。




「…で、黄瀬は何があったんだ?」


キィ、とブランコを軽く漕ぎながら、青峰は黄瀬に尋ねた。

それを聞いてうっかり笑いそうになってしまったが、何とかこらえた。


結局青峰は、何やかやで面倒見が良いのだ。






青峰の言葉に黄瀬は軽く頷くと、気づいちゃったんスよ、と続けた

「…オレ、黒子っちと付き合って、結構経つじゃないっスか。」

「そういえばそうだなあ。」

「………それなのに、オレ、黒子っちから、一回も好きだって言ってもらえてなくて…。」

黄瀬は泣きそうな表情で言っていたかと思えば、いきなり拳を握ってこちらに向き直った。



「どう思うっスか火神っち青峰っち!」

「え、オレ帰りてえ。」

「帰んな。」

ごん、と、未だに家に未練があるらしい青峰の頭部を殴った。

じとりと睨まれたが、正直、機嫌が底辺の時の黒子よりは怖くない。






「えーと、どうせお前から告白したんだろ?」

「……黒子っちからって思ってくれてもいいっスよ。」

ほぼ決めつけて聞けば、黄瀬の声が少し拗ねたものになった。

どうしよう、めんどくせえ。

が、ここでそんなことを言えば、余計に面倒くさくなることをオレは知っている。


「…で、お前が告った時、その返事の時に言ってもらえなかったわけ?」

先程の黄瀬の言い分をシカトして話を進めれば、黄瀬の視線が足元へ下がった。

拗ねたと思ったら今度は落ち込んだのか。

面倒なことには違いないが、少し面白いかもしれない。



そんなことと思っていれば、突然黄瀬の携帯が鳴った。

黒子っちかも!と喜んで携帯を見た黄瀬の顔は一瞬で曇った。

黒子からではなかったらしい。わかりやすい。


「…メルマガだった。」

「…そうか。」

「まぎらわしい!」


この野郎、と言わんばかりに黄瀬は携帯の電源を切った。

何も悪いことをしていないのに怒られる携帯。

ちょっと可哀想ではなかろうか。


なんて携帯のことを考えていれば、黄瀬はその携帯を握りしめたまま、ぽそりと話しだした。


「…オレが、好きです付き合って下さいって言ったとき、」

「うん。」

「………はあ、って、言われた。」

「え。」

「それで、それはOKってことっスか、って聞いたら、」

「…うん、」

「まあ、そうじゃないですかね、って。」

「………。」

どうしよう、なんだか面倒とか面白いとか通り越して、かなり哀れになって来た。

告白の返事がソレか。まじか。



ちらりと隣の青峰を見れば、腹を抱えて笑いをこらえている。

いや、微妙にこらえきれていないが。



「…えーと、それで、お前はどうしたいわけだ?」

かける言葉が見つからずにそう聞けば、決まってるじゃないっスか!と顔を近づけられた。

が、とりあえず鬱陶しかったので殴っておいた。

そうすれば頭を抑えて唸りながらも、黄瀬はぼそぼそと言葉を発した。




「…黒子っち、に、一度でいいから、好きだって、言って欲しい。」




言った瞬間にまた泣き出しそうな顔をするものだから、めんどくせえと思いつつもその髪に手を伸ばした。

黄瀬が地面にしゃがんでいるものだから、必然的に見降ろす形になる。

よしよしと撫でると、なぜか余計に泣きだしそうな顔になった。

子供か。





「……そう言っても、なあ、」

「……なあ。」

困って青峰に話かければ、同じような返事が返された。




多分、同じことを考えている。





「…ええと、とりあえず、お前が黒子から一度もそう言ってもらえてねえってのは、確かなんだな。」

「当たり前じゃないっスか!黒子っちの一挙一動をオレが忘れるとでも!?」

「黄瀬キメエ。」

「青峰っちひどい!」

ぴいぴいと喚く黄瀬を放っておいて横を見れば、青峰と目があった。

少しだけ笑えば、向こうも呆れた顔で笑った。

多分、というか絶対、間違いはない。





「……あのさ、オレが言うのもなんだけど、」

「え?」

間抜けな声が下から聞こえる。

それでも肝心なところで何と言えば良いのかと言葉が詰まれば、青峰が、つまり、と言葉を続けた。




「お前はちゃんと、テツからそういう意味で好かれてんだよ。」




自信持っとけ、ウゼエ、と青峰は黄瀬の額を軽く小突いた。

弱い力のそれはむしろ、少しだけ触れた、と言った方が正しいのかもしれない。




「…それって、どういう、」




「火神、帰んぞ。」

「え。」

「青峰っちシカトっスか!」

もう、と黄瀬が膨れて言えば、そんくらい自分で考えろ、と、今度は少し強めに小突かれていた。




「じゃーな、黄瀬。」

「ちょ、青峰、」

慌てて声をかければ、帰んぞ、ともう一度言われた。




「黄瀬はテツの行動やら言動、全部覚えてんなら、それをもう一遍思い出しておくんだな。」

「え。」

「それがヒント。」



それだけ言うと、じゃーな、と今度こそ青峰はすたすたと歩き始めてしまった。

ぽかんと呆けている黄瀬に、青峰には分からないように耳打ちをする。


黒子の性格を考えてみれば、多分、直ぐに分かんだろうから、と。




それに黄瀬は首を傾げたが、すぐに腕を右に左にと振った。


「青峰っち、火神っち、ありがとー!」





「おー。」

「もう暗いから、気ィつけて帰れよー。」



言えば、青峰から、保護者か、と言われた。

お前にだけは言われたくねえよ。





+++






「火神。」

「あ?」

唐突に話しかけられて何かと思えば、答え合わせ、と言われた。

それに、ああ、と返して、口を開いた。






「お前も、黒子から好きだって言われることあるだろ。」



「お前も、テツから好きだって言われること多いだろ。」






被った言葉に、顔を見合わせて笑う。

お互いに、「も」と言う辺り、お互いらしい。




「テツは素直じゃねえからなあ。」

「言わない、じゃなくて、逆に言えねえんだろうに。」

言いながらケタケタと笑う。




黒子が黄瀬に言わない理由なんて、非常に簡単だ。


黒子は別に、言いたくないわけではない。

それだったら、付き合ってください、と言われた時、断れば良かっただけなのだから。


ただ、言えない。

それは、簡単に言えない相手だから。




「黄瀬は気づくかねえ。」

「黄瀬だからなあ。」

「黄瀬だもんなあ。」

青峰の言葉に似たような言葉で返せば、再び同じように返された。

本人が居たら怒りそうな会話だが、居ないのだから大丈夫だろう。



曲がり角で青峰と別れて、ポケットからそっと携帯を取りだす。

時刻は9時過ぎ。


黒子にメールをしようか、と考えて、再び携帯をポケットに戻した。

もう寝てしまっているのでは、と思ったわけではない。


ただ、あの二人の問題に、オレたちが関わる必要もないように思えたからだ。



「…保護者、か。」


先程言われた言葉を思い出した。

確かにそうかもしれない、と自分で納得してしまうあたり、随分とあいつらに毒されてきたようだ。




がんばれよ、と心の中で唱えると同時にポケットの中で携帯が震えた。

メールだ。

開いてみれば、差出人はこの一連の元凶、黒子テツヤ。




 先程からずっと黄瀬君と連絡がとれないのですが、何か知りませんか。





こんな時間になっても通じない相手を心配しているのだろうメールに、うっかり笑ってしまう。

ついさっき、黄瀬が携帯の電源を切ったせいだろう。




それにどう返信をしようか迷って、結局は返すのをやめた。

すぐに黄瀬から黒子へ電話が入るだろうと思ったからだ。






「さて、いつ気づくんだか。」





等の本人が真剣なところ悪い気もするが、こちらとしては正直楽しくなってしまう。

いつ気が付くのか。

知った時には、黄瀬は余計に黒子にひっついて離れなくなるのだろう。







それこそ、言葉なんて、要らなくなるくらいに。









+++



むぅ様からのリクエスト、「黒子と付き合っているはずなのに一度も好きと言ってもらえない黄瀬が火神と青峰に相談する話」でした。

黄黒というかなんというか、ひたすら火神と青峰ばかりで申し訳ありません…!


黒子がほぼ出てこない話で、珍しいメンツで書くことができてとても新鮮でした。

リクエストありがとうございました!