その日の夜は、暑かった。

そりゃあもうものすごく暑かった。




「…あっつい…。」

ぐてぐてと布団の上を転がる。

それでも暑いものは暑い。

布団にかろうじて冷たい場所があれども、すぐに体温で暖まる。




「暑いんですか?」

「暑いんですよ…。」

本来一人暮らしのはずの部屋の隅から声がする。

それもどういうわけか、今日一日で慣れた。

人間の順応力って素晴らしい。




「クーラーはつけないんですか?」

「…うーん、それには電気会社に連絡しないと。」

「いや引っ越す前にやっておきましょうよ。」

「忘れてたんスもん…。」

幽霊にクーラーのアドバイスまで頂く。

でもその案は駄目だ。今日のところは使えない。




「アイスノンでも冷やしておけばよかった…。」

「アイスノン?」

「保冷剤の大きめのヤツ。寝るときに使うと冷たくて気持ちいいのに…。」

「…へえ。」

目の前の幽霊は、それに良くわからない風な返事を返した。

ひょっとしたら、知らないのだろうか。





「……ねえ、黒子っちは、」

何歳?と聞こうとして、隣に冷たい空気が流れたのを感じた。




「……え…。」

「そういえば、君にとっては、冷たく感じるんでしたね。」


彼が言ったと同時に、額に感じた、冷たい感覚。

これは確かに、昼間、オレが触った体温だ。





「気持ち良いでしょう。」

「……そりゃあ、そこらの保冷剤より、よっぽど冷たい。」


何せ、夏に涼を取るための手段として使われる怪談ご本人の手なのだから。




「仕方ないので、今晩は僕もここに居てあげましょう。」

「これは電気代節約にはもってこいスね。」

「幽霊を節約に利用するのもどうかと思いますが。」

言いながら彼はオレの枕もとに座り込んで、オレの髪を撫ぜる所作をした。




「冷たい。」


「そうでしょう。」




そう言った彼は笑っていたような気もしたが、笑っていなかったような気もした。







「ついでに明日の朝7時に起こしてくれたり、」

「しませんよ。」

「ですよね。」







とりあえず明日のオレの予定は、街の小さな本屋に行くこと。



暑い夜に保冷剤になってくれた彼へのお礼に、どこか適当な寺にでも推理小説を供えてこようと思ったからだ。





色んな意味で冷たい、


オレの許可なしに勝手にんでいた幽霊した。





+++



ちよ子様からのリクエスト、「黒子っちのイラストorパラレル黄黒」でした。

どちらでも良いとのことでしたので、パラレル黄黒で書かせて頂きました。


勝手に幽霊設定にしてしまいましたが、幽霊やホラー系が苦手でしたら大変申し訳ありません…!

私自身は普段と違う設定を考えられて、とても楽しませて頂きました。


リクエストありがとうございました!





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