担任のごく普通の帰りのHR。

今日はどうでしたか、授業はわかりましたか、明日からもまた頑張りましょうね。

要約するとそれだけの内容のはずなのに、どういうわけだか長い。


話が終われば、まだ1年生は部活が決まっていないため、帰宅しようとそれぞれが教室から出た。

知り合ったばかりの子たちと、ばいばい、また明日ね、とぎこちなく手を振ってあいさつするクラスメイト。

もちろん黒子とて例外ではなく、席の周りに居る人から挨拶をされれば挨拶をし返した。


「じゃーな、黒子。」

「はい、また明日、火神君。」


ひらひらと火神に手を振ってから、机の中に入れていたものを鞄に仕舞う。

ロッカーに入れてしまおうかと思ったが、なんとなく止めた。



下駄箱で、まだ新しい上履きと、こちらもまだ綺麗な靴とを履き替える。

ローファーはまだまだ硬くて、足に馴染まない。


気をつけていないと、靴ずれを起こしそうだ。

そんなことを考えながら門を抜ければ、黒子っち、と後ろから声が聴こえた。

それに後ろを振り返れば、門に寄り掛かって立っている黄瀬が居た。


「黒子っち、せっかく待ってたのに無視するなんてひどいじゃないスか。」

「…いえ、まさか居るとは思わなくて。」

何でいるんですか、という質問をぶつけるより先に、軽い足取りで黄瀬が横に並んだ。


当たり前のように、当然のように、いつも通りに、隣に収まった。



「さ、帰ろ。」



言った彼は、さすがに小学校の時のように手を差し伸べてはこなかったけれど、

やっぱりいつまでたっても、変わらない気がした。






「ところで黄瀬君、部活は?」

「え?」

「まさか、サボったんじゃ…。」

「いいいいや違う!今日はホントに休みで!」

「…なら良いです。」


わたわたしている黄瀬に、まあ知っていましたけど、とは言わない。

もちろん部活が今日休みだなんてことは全く知らなかった。

それでも、この人が部活をサボって来るだなんてありえないことは、知っているからだ。





「そういえばですね、黄瀬君。」

「うん?」

「………やっぱり内緒にしときます。」

「…えー?」


部活、僕も火神君も、君と同じ部に入るんですよ。

彼の鞄に入っていた雑誌や自己紹介の時に言っていたことについて聞いたら、やっぱり、そうなんですって。


部活の入部届けの紙は確か来週くらいに提出ですね。

きっと君は、僕が入ることは予想していたんでしょうけど、火神君まで、ということは、さすがに考えていなかったでしょう。


なんて、言いたかった言葉は全部無かったことにして。




「まあ、その時をお楽しみに、ということです。」

「何スかそれー。」




に、といたずらっぽく笑った黒子に、黄瀬は何も言えないでいた。

だって、なんだか、まるで、




「……黄瀬君?」


黙り込んだ黄瀬の顔を、訝しげに黒子が覗き込んだ。

それにはっとして、なんでもないよ、と返して、帰路を歩く。

取りとめのない話をして、一歩ずつ一歩ずつ、家に近づいて行く。





本当は、ほんの少しだけ、寂しく感じた、なんて、君には内緒。

いつの間にかオレから離れて、成長して行ってしまうんだろうなあ、って。


そんな風に考えたら、ちょっとだけ、ちょっとだけ、




「あ、黄瀬君。」

「え?」

「僕、明日ちょっと早めに行ってやりたいことがあるんです。」

「…うん。」

何するの?と聞きたかったが、まあそれは彼の用事だ。

でもそれをどうしてオレに、と思っていれば、だから、と続きの言葉が重なった。




「だから、少し早めに起こしにきてください。」




オレが明日も行くと信じて疑わないその言葉に、つい笑いそうになってしまう。

それでもそれはこらえて、はいはい、とだけ返す。





そうだ。

そうだ。



誰が成長しようと、オレたちは何も変わらない。

寂しいなんて思っている暇はない。


そんな時間があるのなら、

家に行って、おはようと声をかけて、また明日も、同じようにカーテンを開けてやるのだ。



いつでも君に、           届けにいく          
「おはよう、黒子っち!」 「早すぎます。」 「ぶっ!」 もう長い間目覚ましの役割を務めていない目覚まし時計が投げつけられた。 その役割を奪ったオレは、今日も今日とて、君と一緒にいるのだ。 +++ 緋来京様からのリクエスト、「黄瀬が年上、黒子が年下の幼馴染or従兄弟」でした。 幼馴染か従兄弟ということで、幼馴染で。 火神にも友情出演してもらったのですが、大丈夫だったでしょうか…? いつも通り黄黒と言い難い黄黒になりましたが、楽しく書かせて頂きました。 リクエストありがとうございました! (4/4)