数日前に、彼に、誕生日に何か欲しいものはある、と聞いた。

そうしたら、黄瀬君はバカだから分からないと思います、と返された。



「ちょ、バカって、」

「バカじゃないんですか。」

「バカっスよ!」

「いや認めないでくださいよ。」

言ってて虚しくなりませんか、と言われたものの、まあオレとしてはあまり気にならない。

お勉強の面では、間違いなくおバカなグループに入るのだろうから。



「でもまあ、バカでも、分かるもんは分かるっスから。」

「分からないものは分からないんじゃないですか。」

「うんまあそう言えばそうスね!」

この人は揚げ足取りをさせたら天下逸品なんだろう。

そう思っても口に出しては言わない。

賢明な判断だ。




バカではわからないもの。


彼が好きな作家さんの本だろうか。

正直、作家の名前なんて、夏目漱石とか森鴎外とか、教科書以外ではほぼ読んだことがない人物名しか思いつかない。

最近は芸能人が自分の生き様やら苦労話やらを書いた小説なども発売されているが、アレは別物であろう。

あまり彼が好むものには思えない。


参考書…だったら正直、仮に欲しがっているものでも、オレがあげたくない。

だって、プレゼントに参考書って、ちょっとどころかかなり嫌だ。


あと、バカには良くわからないもの。

イコールオレには分からないもの、ってことは、オレはどんなに考えてもアウトじゃないんだろうか。

なんて、自分で考えておいて、哀しくなるようなことを思う。


それでも彼は、それを満足そうに見ていた。



「…分かんないっスよ。」

「良いですよ。分からなくても。」



やっぱり、黄瀬君はおバカですね。



そう言った彼は愉快だと言わんばかりに顔を微笑ませていた。











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