刻は夕方。 いつの間にか暮れていた空を背景に走る。 ぜえぜえと息を切らしたながら着いた場所は、スタート地点。 つまり、黒子の家である。 ドアノブに手を掛けると、軽く手前に引いた。 やっぱり。 締めたはずの鍵が開いてる。 そう確信すると、勢いよくドアを開け放った。 「黒子っち!」 「あ、お帰りなさい。」 「……え、あ…、た、ただいま…?」 「遅かったですね。」 「………そう…?」 あれ、ちょっと、オレ、何普通に出迎えられちゃってんの。 玄関ドアを開けた瞬間、ちょうど玄関の前を通りかかったらしい黒子っちに出迎えられた。 ちなみにここ、オレの家じゃないからお帰りじゃないんだけど。 うん、まあ、いいか。 「…えーと、誘拐犯のお二人は…。」 「ああ、あの二人ってバレちゃってましたか。」 「そりゃ、まあね。」 これ読んだら、まず青峰っちってことはわかるし。 言いながらポケットに仕舞った紙を取り出して黒子に渡す。 そうすれば、黒子の目が一瞬鋭いものに変わった。 そしてつかつかと奥に歩いて行くと、青峰君!と階段の下から叫んだ。 少しして、青峰から間の抜けた返事が返って来た。 「あー?何―?」 「ちょっと君コレ!バレるに決まってるじゃないですか!」 「え、何…、うわっ黄瀬!」 青峰からぎょっとした表情で見られた。 どうもこんにちは、というかこんばんは、ゆうかい犯。 へらりと笑い返したオレとは対照的に、黒子は青峰の服を掴んだ。 ぐ、と引っ張られれば、青峰は軽くバランスを崩していた。 「何っで、僕のことを名前で書いちゃってるんですか。」 「…いやだって、」 「誘拐犯が僕の名前知ってるわけないでしょう!」 「……あー…。」 「それにこの呼び方ですぐに誰か分かるに決まっているでしょう!あと漢字くらい使って下さい!」 「はっはっは。」 「笑い事じゃありませんよ!そんなだから現代文の成績がいつまで経っても…!」 「テツ、話ずれてるずれてる。」 いつの間にか論点が誘拐犯の話から青峰の現文の成績にすり替わっていた。 青峰はそんな黒子の話を聞いているのか居ないのか、まあドンマイだ、と親指を立てた。 それに黒子が何かを言おうとしたが、おい、と後ろから聴こえた声に遮られた。 「青峰も黒子も、その辺にしとけ。」 黄瀬が困ってんだろ。 「火神。」 「火神君!」 ぎゃあぎゃあと騒いでた二人も、まあ火神が言うのなら、ということなのか、大人しくなった。 火神っちすげえ。 「火神っちが女神に見えるっス。」 「キショイ。」 「そんな一言で!」 この場を収めたことにオレなりに送った称賛の言葉は、簡単に返された。 「とりあえず黒子、オレが言うのもなんだが、上がってもらったらどうだ。」 「ああ、そういえば玄関でしたね。」 「黄瀬も、ホラ。オレらお前を待ってたんだから。」 「火神っち…!」 火神っちマジ天使! そのまま飛びつこうとすれば、ノーセンキューと顔面を抑えられた。 おまけに黒子からは、火神君に何するんですかとぶん殴られた。 黒子っちからすれば、オレが火神っちに抱きつこうとしたことよりも、火神っちが抱きつかれることの方が問題らしい。 …あれ、オレ、誰と付き合ってんだっけ。 → (6/10)