黒子の部屋に通される前に、黄瀬、と小声で青峰に呼ばれた。

それに黒子と火神には、先に行っていてもらった。

人様の家だと分かってはいるが、誰もが全員、勝手知ったる家と言わんばかりの状態だ。


「なあに、青峰っち。」

「お前、コレ。」

これ、と渡されたものは、玄関の靴箱に置いておいたものたち。

そういえば先程は存在を思い出す間すらなかったが、確かになかった。


「どうせこれ、プレゼントだろ。ケーキは冷蔵庫に勝手に入れさせてもらってたから、傷んじゃいねえよ。」

あのままじゃテツにバレるだろうから、見つけた時にオレが回収しておいた。

どーだ、と言いたげな青峰の後ろに後光が見えるのはオレの気のせいだろうか。

いや間違いなく気のせいだろうが。


「……青峰っち…!」

「おう?」

「漢字使えよバカなんて思ってごめんね!」

「潰すぞ。」

「どこを!?」


聞いたが返事は返ってこなかった。

返ってきたらきたで怖いのでスルーしておこうと思う。



「てか、これって青峰っちたちが企画したんスか?」

「ん?あ、いや、主犯はテツ。」

「え?」

なんでこんなことを。


とても不審げな顔をしていたらしいオレを見て、青峰は微妙に笑った。

いつもの彼からは珍しい表情だ。




「いやな、誕生日、何か欲しいモンあるかって聞いたんだよ。」

そうしたら、その日一日を僕にくれませんかって。

それは黄瀬に言えよ、と言ったら、彼には捧げてもらうつもりでいます、と言われたのだ。

正直、意味なんざわからなかった。



「で、まあ、了承したら、こう言うわけだったってことよ。」

「……はぁ…。」

分かったようで分からない。

まあ、黒子テツヤとはそういう人間なのだから仕方がない。



「詳しいこと知りたきゃ、テツに聞いとけよ。」

「そっちのが分かんなくなりそうっスね。」

「まあテツだから。」

「黒子っちだからね。」

黒子テツヤだから。

それですべてが収まってしまう辺り、何とも言えない。

さすがです。



「ほれ、早く上行くぞ。」

「あ、うん。」

「お前が来るまでって、オレも火神も、テツに祝いの言葉言ってねえんだから。」

「え、そうなんスか?」

ああ、と頷いた青峰は、なぜか、少しだけ寂しそうに見えた。



「きっとテツは、一番に、お前からの言葉が欲しいんだと思って。」



青峰は右手をそっと弱い力で握りしめると、今は上の階に居る、かつての相棒の姿を頭に描いた。


そう。

ずっと、我慢してた。

オレも、もちろん火神も。

おめでとうって、生まれて来てくれてありがとうって、言いたかったけど。



でも、




「どうせテツは、お前が一番好きなんだろうから。」


だから、少しのイタズラくらい、許せよ。




そう付け加えられた言葉に、黄瀬は、握りこまれた青峰の手をそっと解いた。

思いのほか簡単に解けた手は、とても、温かかった。



「それでも黒子っちにとって、青峰っちと火神っちは、ずっと、ずっと、特別なんスよ。」



決してオレの踏み入ることの出来ない場所。

そこは、まぎれもなく、光のふたりだけの場所。





月並みの言葉しか言えないオレに対して、青峰っちはそれでも笑ってくれた。









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