カチャカチャと食器類が音を立てる。

黒子が次々に、カップやフォークを盆に載せていく。


「黄瀬君、それ、上に持って行ってもらえますか。」

「はいっス。」

それ、と示されたものは、皿とフォークが載っていた。

ケーキ用だろう。



黒子は冷蔵庫から麦茶のポットを取り出すと、ケーキに麦茶でもいいですかね、と首を傾げた。


「いいんじゃないスか、さっぱりして。」

「さっぱりならめんつゆがオススメですよ。」

「オレ麦茶がいいな!ぜひ!」

色的に大して華やかになるわけでもないのにめんつゆ。

なぜそれを勧めようと思ったのかは非常に謎だ。


つまらないですね、と言いながら、黒子はもうひとつの盆にカップとポットを載せた。

それを見ながら、先程解決しなかった疑問を、口にしてみる。



「ねえ、黒子っち、何で今日はこんな感じにしたんスか?」

「え?」

「さっき青峰っちに聞いちゃったんスけど、これ、黒子っちが考えたんだってね。」

「ええ、まあ。でも詳細はほとんどあの二人が考えてくれましたよ。」


玄関にあの紙を置いておき黄瀬に探しに行かせて、自分たちは家の中で待機。

おそらくは最終的にこの家に戻ってくるであろう黄瀬を迎え入れる。



「…全く、オレの性格丸分かりされてなきゃ出来ない計画っだったわけスね…。」

「君が今日家に来ることも、紙を見つけたら直ぐに探しに出ることも、そして、最後は戻ってくることも。」

全部、計算ずくでしたから。

そんな風に続けられた言葉には、さすがに苦笑するしかない。



「戻ってくるのは夕方か夜に近い時間だと思っていたので、計画は大成功でした。」

「でも、なんでわざわざ…。」

「ただの、僕のわがままです。」


あの二人は、そんな僕のわがままに、付き合ってくれたんです。

こんな寒い時期に振り回すようなことしちゃって、すみません。


そんな風に付け加えられた言葉に、それは全然構わない、と言えば、黒子は口の端だけを上げて、そっと微笑んだ




「一日の終わりまで、君はずっと、僕を追いかけてくれた。」



僕との関わりのある場所を探してくれたのでしょう。

そこでの出来事を思い出して、想いを馳せてくれたりしたのでしょう。


僕らは一時、一緒に居られないときがあったから。

暦の上では短い間でも、毎日が目まぐるしい日々を過ごす僕たちにとって、記憶は意識に背いて、着実に薄れて行ってしまうから。



それでも、その薄れてしまった記憶を、少しでも思い出してもらうことが出来たでしょう。

過去の、とても輝いていた記憶に、場所に、今日と言う日を追加することができたでしょう。




そして、ずっと僕のことを、考えていてくれたのでしょう。





「これ以上の誕生日が、あるもんですか。」




ふふ、と笑った黒子は、どちらかと言えば無表情に近いのに。

それだというのに、とても綺麗に見えた。




そのまま黄瀬が返事を返せないでいれば、さあ、上に行きましょうか、と黒子から声が掛けられた。

慌ててテーブルから盆を持ち上げると、中の皿がずれて、かちゃんと音がした。





君の欲しかったもの、それは、この時間であったのだろうか。

過去も現在も全部融合させて、ただひとつのものにと。

鍵を掛けた過去を解いて、全てを愛しく思えるようにと。





ちらりちらりと、彼が歩くたびに、それに合わせて水色の髪が揺れた。




「黒子っち。」




思わず祝いの言葉を口に出しそうになって、慌てて口を閉じた。

それに訝しげに振り返った黒子に、とてつもなく愛しさだけが募る。






「…大好き。」






祝いの言葉は、あとで3人で一緒に言うから。


大切なふたりと一緒に、君を祝うからね。











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