この人は、また、泣いている。

昼も夜も、よく泣く人だと思う。


「…黄瀬君。怖い夢でも見てるんですか。」

普段は僕のことをぎゅうぎゅうと抱き締める腕は、まるで縋るように枕を掴んでいて。

弱い力でしわを作っている枕には、既に大きく水の染みた跡があった。


魘されているわけではない。

涙さえ流れていなければ、とても穏やかな寝顔なのだろう。


それでも、枕は濡れる面積を着実に増やしていく。



「……黄瀬君。」

黄色の髪をさらりと梳く。

それでも、閉じられた瞼の隙間から、水滴はとめどなく零れた。





人魚の涙は、真珠となり、海へ沈んで行きました。






彼のこの眠り方に気がついたのは、いつ頃だったのだろう。

時期こそは覚えていないが、初めて彼の家に泊まりに来た時だったように思う。


眠るときは、そっと抱き締められて眠っていた。

そのはずだったのだけれど、いつの間にか彼の手は僕から外れて、シーツを掴んでいた。

それに気がついたのは、頬が何かに濡れている感触がして、目を覚ましたときだ。


初めは夢のせいだと思った。

それだから、魘されている人を起こしてはいけないとどこかで聞いた気がして、起こすことはしなかった。

その代わりにしとしとと涙を流す彼に腕を回して、自分の胸元に引き寄せた。

黄色の髪に頬を擦り寄せて名前を呼んでも、彼はただただ涙を流すばかりだった。



普段から色々と我慢をしているのであろう彼を思うと、泣かないで、とは言えなかった。

それでも彼の涙を見ていることも辛くて、泣いていいよ、とも言えなかった。


抱き締めたまま、まるで壊れたレコードのように、僕は彼の名前だけを繰り返し呼ぶのだ。








「きせくん。」