きゃっきゃと浮足立つ男女が行き交う校内を練り歩く迫力の5人。

それに驚きやら畏怖やら興味やら好意やら、色々な意味を含んだ視線が投げかけられる。



「……というかもう、青峰君なんかはもうほんと取り返しのつかないことになってますよね…。」

「あ?」

「なんでもないです。」

「なんでもなくねえだろなんだこの口かオレにそういうこと言うのは。」

ぐにぐに、と青峰が黒子の頬を抓めば、黒子はその手をはたき落して、黄瀬の後ろに隠れた。


「よし黄瀬、テツをこっちに渡せ。さもなくばその髪を血で赤に染めてやる。」

「嫌ですからねそんなことしたら黄瀬君を屋上から突き落としてやりますからね。」

「うっわオレ巻き添えじゃないっスか!?」

黄瀬はそう言いながらも、自分の背中に隠れている黒子の頭をよしよしと軽く撫でた。

そうすれば黒子は、べ、と子供っぽく青峰に舌を出す。

そんな珍しい黒子を見て微笑んだのは、黒子の前にいる黄瀬だけではなかった。






「クレープー。」

「あ、僕も。」

「ああもう二人とも大人しくしているのだよ!どこか行く時は声をかけろ!」

緑間が紫原と黒子に保護者並みのお小言を言う。

その後ろでは、黄瀬と青峰がくつくつと苦笑していた。


「黒子っちも意外と楽しそうっスね。あの恰好で回るの嫌がってたのに。」

「いやあれだろ。女装してっとオマケしてくれるトコもあるからだろ。」

「………あーねー…。」

可愛い子にはオマケ!なんて言う人は本当に居るもので。

黒子は可愛い子扱いに多少はムッとするものの、まあオマケしてくれならいいか、と気にすることを放棄。

ちなみにそんな二人にネタにされている当の本人は、クレープの中身を何にしようか迷っていた。


緑間の言葉なんて、黒子も紫原も全く聞いていない。

クレープの次はなんだタコ焼きかタイ焼きか、いやアメの掴み取りも捨てがたい、なんてことを話している。




「…それにしても、見事に食べ物にしか興味ない二人っスねえ…。」

「むしろそれ以外に注目するものがあったらすげえと思うけどな。」

二人は飲み物とたこ焼きを手にして、子供二人とお母さんを見ていた。

もちろん子供二人は紫と黒、お母さんは緑だ。



「……青峰っち、青峰っち。」

「あ?」

ふふふ、と黄瀬が指差した先には、お化け屋敷、と書かれた教室。

「文化祭と言えば、やっぱアレでしょう!」


やっぱり定番なとこは行っとかないとね、と黄瀬が得意気に言う。

なんでお前が得意気になるんだ、と青峰が突っ込む前に、黄瀬は前の3人の元へ走っていた。







「くろこっちっちー!」

「人を某ゲームの様に呼ばないでください。」



「たち」を省略すると「ち」が多いなあ、なんて、青峰はどうでもいいことを考えた。





+++




「……ちょっと、行きたがった人が僕の後ろに隠れないでくださいよ。」

「いやいやいや、隠れてないっスよ、オレが黒子っちを護るんスから!」

「護るなら前に出てくれませんか。なんで僕が先頭なんです。」

会議室を使っているだけあって、わりとその教室は広い。

そのせいか、何人ずつ、という指定がなかったため、5人まとめて入ってしまった。



「…にしても、あんまり怖くないねえ。」

「そりゃあ、たかが学校の文化祭だし。」

「この程度で怖いというやつの気がしれないのだよ。」


「だったら全員まとめて先頭歩いて下さいよなんで僕ですか。」


レディファーストっス!と黄瀬が黒子の肩を掴んで言えば、暗い中でも的確に黒子は黄瀬の顔面を殴った。



結局アレですか、みんな先頭嫌なんですか。だったらなんで入りたがるんですか。

黒子は心中で後ろにいる4人に訴えた。



「あ。」

「うおっ!?」

黒子が簡単に反応を示したものに対して、後ろにいる黄瀬はこれでもかと言うほどに反応を返す。

これなら驚かせる方も楽しいだろう、なんてことをつい考えてしまう。



「黒子っちあんまり怖くなさそうっスね。」

「突然出てきたものに驚きはしますけど。」

お化けやしき自体はまあ、怖くはないですね。と黒子は返す。



そう言いながら黒子が後ろを振り返れば、青峰と緑間が視線をあちこちに漂わせている。

「…ホント、こんなもんが怖ェ人間なんかどうしようもねえよな。なあ!」

「その通りなのだよ。この程度でオレがビビるとでも思ったら大間違いだ!」

「黒ちん、駄目だこの二人。怖がっちゃってうるさい。」

紫原が黒子に言えば、緑間と青峰は反論しようとまた騒ぐ。

それに黒子は、はあ、とため息を吐いた。

そして、ととと、と黒子が黄瀬を置いて、紫原に近寄ると、そっと耳打ちする。






「……紫原くん、この3人置いて走って出ちゃいましょうか。」

「それいいねえ。」

言うが早い。2人が、に、と笑って3人を見たかと思うと、2人は出口に向かって走った。

いつもなら簡単に掴まってしまうだろうが、今回は話が別だ。

せいぜい怖がればいい。





中から黄瀬の叫び声が聴こえたが、既に次の食べ物に目を光らせていた紫原と黒子は知る由もなかった。






+++






「……黒子っちいぃ、酷いっスよ置いてくなんてー…。」

さめざめと泣きながら、お化け屋敷から出てきた黄瀬は、ぼふりと当然の様に黒子に抱きついた。


「…全く、黄瀬が怖がるから大変だったぜ。」

「そうなのだよ。黄瀬が怖がるから。」

黄瀬が!と強調する二人に、ああそうですか、と黒子は興味なさげに返した。


そして廊下にかかっている時計を見上げると、さて、と呟く。





「そろそろ投票時間です。体育館に戻りますよ。」










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