投票方法は簡単。

ステージの手前には番号の書いた紙が立てかけられていて、5人はその後ろにそれぞれ並ぶ。

そしていくつか設置された箱の中に、投票者はひとつだけ番号を書いて入れる。

居たってシンプルな方法だ。

ちなみに参加者に投票権はない。


周りの友人と相談しあう生徒たちの好奇の目に晒されながら、黒子は隣の黄瀬に恨めしげに視線を送った。

「なんでこんなにギャラリー多いんですか。」

「そりゃ学校中にポスター貼りまくってあるっスもん。」

「そういえばありました。ええもういっそ鬱陶しいほどありました。」

「黒子、ここまで来たらいっそ潔く堂々としているのだよ。」

「緑間君は堂々としすぎです。可愛らしさ皆無です。」

「え、なに、テツはオレが一番可愛いって?いや参ったなあ。」

「おぞましさでは文句なしで君が一位ですよ。」

「青ちんは鏡を見るべきだよねえ。」

「仕方ないんですバカなので脳にまで情報が届いていないんですよ。」

ステージ上で中睦まじく談笑をしているのか漫才をしているのわからない5人を、生徒たちは下から見上げていた。

高身長が多く、迫力が凄まじいせいで近づき難いバスケ部レギュラーが、なんて低レベルな会話を。

ああうんあいつらもやっぱり中学生なんだな、と無理やり納得をして箱に投票用紙を入れた生徒が多かったことを、黒子はステージ上から見ていた。


その場で係の生徒が開票を行うと、いかにもお祭り男という風体の男子生徒は、楽しげに結果を発表した。

その道のプロにでもなれるのではないかと思うほどテンポの良い司会の進行具合に、生徒たちは釘づけだ。




じゃーん、という効果音と共に言われた投票結果は、結局、黒子が優勝。黄瀬が準優勝。

黒子には図書券と学食券、黄瀬には黒子よりも少なめの学食券が与えられた。



「…テツはわかるが、なんで黄瀬だよ。」

「いや、青峰が選ばれるよりもよっぽどマシなのだよ。」

「緑間っちがオレをかばってくれるなんて珍しい!」

「いや正論言っただけだよねー。」

「ちょっと黙りませんかむしろ黙ってください。」

ステージ上でこれまた漫才を始めた5人に、会場のムードは柔らかい。

またやってるよ、とこの数十分で慣れた光景に、生徒たちは楽しげだ。



発表が終わって舞台袖に引っ込めば、先ほどの司会者から、投票結果の紙を渡された。

なぜ今更、と思っていれば、コメントが書いてあるのもあるしよかったら読んで、とのことらしい。

それに礼を言って、生徒たちの数もまばらになった体育館に5人で腰を下ろす。

がさがさとそれを漁って開ければ、投票用紙には、まあ気が向いたら書いてね、程度のコメント欄が設けられていた。


優勝の黒子には、

「黄瀬の後ろに隠れているところが可愛いかった。」

「一生懸命食べているところがいい。」

「男でもこの子なら付き合える!」

など、男女双方からのコメント。

3番目のようなことが書かれている紙は、集計後、黄瀬がびりびりに破いてゴミ箱に捨てて燃やしていた。

そのときの笑顔と言ったら、モデルのときよりも何よりも素晴らしい笑顔だったと、とある目撃者は顔を青くしながら語った。




準優勝の黄瀬には、

「お化け屋敷怖いなんて可愛い!」

「身長高いと何着てもサマになる!」

など、可愛らしい文字とハートマーク付きでで書かれた、女の子からと思われる票が多数。

それにまたしても黄瀬は、お化け屋敷怖くない!と黒子に必死で言っていた。




ちなみに後の残りの3人に共通して多かったのが、「迫力が凄まじい」と言うものだった。

それはもう迫力だけはその辺のチンピラよりもあるだろう3人は、そのコメントに何とも言えない顔になっていた。




「黄瀬君、笑っちゃ駄目ですよ。」

「いやいやそう言う黒子っちこそ笑ってるっスよ…。」

「票が多かったからって調子乗ってんなよ黄瀬ェ!」

「うあああん毎回オレばっかりー!」

ぴゃああ、と泣く黄瀬に意識を奪われて、腹を抱えて笑いをこらえる黒子の顔を覗きこんだ者はいなかった。









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