泣かないんだね、って、言ったことがある。 今思えば、小学生に言っているような口調だった気がする。 それにまるで興味なさそうに、そうですね、とだけ返された。 一応、どうして、って意味で聞いたつもりだったんだけど、伝わらなかったらしい。 もしくは伝わったけど、分からないフリをされたのだろうか。 そういった言葉のかけひきは、あの人に勝てたためしがない。 可愛いって言って髪を撫ぜたら、脇腹を思い切り殴られた。 ちょっとばかし痛いです。 それでも、水色の隙間から見えた眉間にしわが寄っていたから、つい笑ったら、また殴られた。 ちょっとの2乗くらい痛いです。 自分の存在に気がつかれなくても、わりと障害物を難無く避けていたりして、少し不思議。 それでも、後ろから来たものには気づかなかったらしく、大きな段ボールを持った生徒にぶつかられていた。 ぺこぺこと謝る生徒に、大丈夫ですよと返して、落ちた荷物を拾ってやっていた。 彼はきっと、日本語の正しい意味を知らないのだと思う。 甘いものが好きらしく、青峰からチョコを貰っては上機嫌で食べていた。 何もらったの、と聞いたら、苺とチョコとバニラですと言われた。 ひとつちょうだいと言ったら、少し迷った後で、バニラをくれた。 嬉しいです。ありがとう。 好きだよって伝えたら、無表情のまま、そうですか、と返された。 愛してるんだよと告げれば、少しは静かにできませんかと怒られた。 つれないですね。でもめげません。 → (1/5)