「珍しいっスね、黒子っちから呼んでくれるなんて。」 「いえ、まあ、そうですかね…。」 部活帰りの夕方、学校の近くの曲がり角で待ち合わせ。 そういえば自分から会いたいと呼んだことなど、片手ですら余るほどだろう。 いち、にい、と脳内で指折り数えたが、にの指が曲がらない気がして止めた。 「…黄瀬君。」 「ん?」 名前を呼べば、少し屈んで、目線を合わされた。 身長差を強調されたような気がして、少しばかり悔しい。 「僕はですね、僕なりに考えたんです。」 「……何を?」 少し小首を傾いで聞かれる。 まあ確かに、いきなりでは分からなくて当前だろう。 だがもちろん気にしない。 「で、結論が出ました。」 「うん、ちょっと話が見えないんスけど。」 「君がとてもおせっかいだということになりました。」 「うっそ!話の概要全くわからないのに何かショックっスよ!?」 オレの何が駄目!?と騒ぐ黄瀬の少し後ろの方に、狭い歩幅でてちてち歩く猫が居た。 こちらの視線に気がついたのか、はたまた偶然か、猫もこちらを見た。 「僕はね、もうね、充分なんです。」 「うん、何がだろう。」 心底わからないよ、と言いたげな黄瀬の後ろの方では、猫が歩みを止めた。 そして軽い足取りで、塀に飛び乗って木に登った。 なーう、と上げられた声の方に、黄瀬もそちらを向いた。 「あ、猫。」 「可愛いですね。」 「ね。」 降りてくればいいのに、と言う黄瀬に、ほんの少し前まで後ろにいたことは教えてやらない。 癪に障るから。 その代わりに、そっと足を踏み出して黄瀬に近づいた。 黄色の眸が、こちらに向けられる。 「僕は、わりと自由きままにやっていますよ。」 「いやそれは知ってる。」 以前のように間髪入れずに返って来た言葉に、少しだけ笑ってしまう。 そうだね、そうして返してくれる君が居るから。 「だから、辛くなんかならないんです。」 下から黄瀬の顔を覗き込むようにして言えば、黄瀬は少しだけ目を丸くした。 そして少しだけ首を傾けて、目を細めて、そっか、と呟いた。 君が僕の傍に居ること自体、君は僕を最大限に甘やかしているのだと思うから。 (だから、それ以上のことなんて、考えてくれなくていいよ。) → (2/3)