幽霊は、黒子と名乗った。

それなのでオレも、黄瀬と名乗った。


黒子っちって呼んで良い、と聞いたら、ものすごく嫌そうな顔をされた。



「良いじゃないスか、ルームメイトなんでしょ。」

「それとこれとは話が別です。」



そんな会話もしながらも部屋の引っ越し用品を片づける。

その様子を、幽霊の少年はただ見ていた。




「黒子っちも暇なら手伝ってくれてもいいんじゃないスか。」

「僕、モノに触れませんもん。」

「今せんべい食ってるじゃないスか。」

「これはその辺の祠に供えてあったのをわけてもらったので。」

言いながらバリバリとそれを食す幽霊は、やっぱりどう頑張ってもオレの中の幽霊像と一致しない。



幽霊ってもっとこう、おどろおどろしかったり、現世への未練があったり、誰かに気持ちを伝えたかったり、とか、そういうものの印象が強い。

それだというのにこの目の前の幽霊は、ただせんべいを食し、サスペンスドラマを見ている。


「…サスペンス、好きなんスか?」

「嫌いではないです。」

「なにそれ。」

「本当はこういうものは小説の方が好きなのですが、なんせ供えられたものでないと触れないもので。」

「ふうん。」

そういうもの、と聞けば、そういうものです、と返された。





「……はあ。」

「黄瀬君。」

「え?」

「手伝ってあげましょうか。」

「え!まじスか!」

その甘い誘いに喜んで頷けば、幽霊は満足気だった。

そして着ていた服の腕をまくると、よし、と意気込んだ。



「久々にポルターガイストをお披露目しましょう。」


「待ってオレは今片づけてるんだってば…!」


それはノーセンキュー、と手で制して言えば、なんだつまらない、と言われた。

会って初日の割に、言葉の遠慮は全くないらしい。





「あれ、でも、」

「?」

突然思いついたように声を上げれば、それに彼も振り向いた。

しばらく考えて居れば、早く続きを言え、と言わんばかりに見てくるものだから、仕方なく口を開く。



「…いや、この間この部屋見学に来た時、黒子っち居たっけ…?」

少なくとも、オレは見ていない。

見ていたら、多分、ここにしなかった。


そんなことを尋ねれば、当然のように、隠れていましたよ、と返された。

「早く誰かに入ってもらわないと、暇で仕方なかったものでね。」

「ああ、なるほど。だからね。」



話しながらも、びー、と段ボールのガムテープを剥がしていく。

中身をひとつひとつ出して、整頓して、また開けて、の繰り返し。




ふよふよ浮いていた彼は、やっぱりふよふよ浮いている。

幽霊は酔ったりしないのか、なんて、どうでもいいことまで考える。



「暑いっスねえ…。」

「そうですか?」

ふう、を汗を拭えば、汗ひとつかかずに長袖を着ている幽霊に聞き返された。

夏だからね、と言えば、そうでしたね、と返って来た。

一応、季節は把握しているらしい。




「…さて、もう少し動くかな。」

「ふぁいとー。」




応援する気があるのか無いのかわからない声で適当に応援された。


はい。がんばります。











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