「おはよう、黒子っち!」 「……おはようございます、黄瀬君。」 名前の代わりに、不法侵入者、と言おうとしたのは内緒だ。 シャアア、と部屋のカーテンを勝手に開ける不法侵入者など、どれだけ世話好きな犯罪者なのか。 「眠そうっスね、黒子っち。」 「実際眠いですからね。」 「そんなんで大丈夫なんスか?今日から1日でしょ?」 「……そうでしたっけ。」 「1年生は今日から普通授業、だって、さっきおばさんが教えてくれたっスよ。」 「…………教科書の用意、してない、気が、」 「うっそぉおおお!?」 黄瀬が視線を移せば、配られたまま部屋の隅に積まれた教科書ノートの束。 その横には、まだノリが利いてぴっしりとしている綺麗な制服がある。 黒子テツヤ、新中学1年生 黄瀬涼太、新中学3年生。 同じ中学の先輩後輩、にはつい先日なったばかりであるが、 人生の先輩後輩としては、随分昔からの付き合いである。 簡単に言えば、単なる幼馴染、だ。 にゅー はっぴー でいず を 「行ってきます。」 「行って来ます!」 はい、行ってらっしゃい、と手を振って見送ってくれたのは、黒子の母親。 黄瀬と、というか黄瀬の両親との付き合いも長いため、黒子母にとっては、黄瀬涼太も自分の子供みたいなものらしい。 そんなことを以前言っていた。 「黒子っち、教科書確認した?」 「んー、多分大丈夫です。」 「ああ、うん、オレが詰めたままなんスね。」 「ちゃんとしてるって信じてますよ。」 「そりゃあもう、必要事項の書いてあるプリント、穴があきそうなほどに見たからね!」 朝、黒子が非常に面倒くさそうに制服に着替えている間、黄瀬はがさがさと教科書の山を漁っていた。 そこから必要な教科書や道具を抜いて、その教科分に合わせてノートも出して、鞄に入れた。 まあそこから確認せずに持ってきて、今この通学路に至るわけか。 黄瀬は自分でそう解釈すると、この子学校大丈夫かな、とつい心配になってしまう。 気分はすっかり保護者だ。 「というか、黄瀬君。」 「ん?」 「僕が年下なんですから、敬語、使わなくていいんですよって言ってるのに。」 「お兄ちゃんのオレに対して、黒子っちは敬語止めてくれないのに?」 「いやいや誰がお兄ちゃんですか。真っ赤な他人ですよ。」 「ひどい!」 ぶわわっと泣き真似をする黄瀬を見て、こんなのが兄だったら毎日うるさいだろうなあ、と黒子は冷静に考えた。 いや、それでも家の近さゆえに、ほぼ毎日と言っても過言ではないほどに会っているのだ。 下手したら本物の兄弟だって、ここまで会っていない人もいるんじゃなかろうか。 お互いが小学校の時は、当たり前のように毎日一緒に通っていた。 黄瀬が中学に上がってからは、さすがにもう一緒には行かないだろうと思っていたら、当然のように朝迎えに来た。 何でも、小学校は中学校の通り道にあるから、一緒に行こうね、ということで。 そして黒子が中学に上がっても、いつも通りと言わんばかりに、勝手に部屋のカーテンを開けていた。 「そういえば黒子っち、今日購買でご飯買うでしょ?」 「あ、はい。」 「昼休み迎えに行くから待っててね。」 「いや大丈夫ですよそれくらい。」 「…それがね、あの学校の購買、すっごい混むから、慣れてないと買えなかったりするんスよ。」 「……そうですか。」 うん、と言う黄瀬に、そうですか、ともう一度返しておいた。 心配性で、おせっかいで、世話焼きな、 いつまでもたっても変わらない、年上の幼馴染。 → (1/4)