黒子が教室に着けば、既に教室に居た人たちは、全員緊張しているように見えた。

まあ当然と言えば当然だろう。

入学式からの数日はほぼ教師の指示で、大して話をする時間もなかった。

それに授業が加わるとなると、何と言うか、途端に生徒たちの空間になるのだ。


ぎこちなく近くのクラスメイトに話しかける人、大人しく席に座っている人、鞄の中を漁って忘れ物がないか確認する人。

こうして教室の中を見渡すだけでも、随分と個性があるように思う。


一方で黒子はと言えば、昨日買った新刊が読みたい一心で鞄から本を出した。

実は気になって、昨日の夜に少しだけ読んでしまったのだ。

これからの展開に期待をしつつページを開く。

いや、開こうとした。

ガタン、という音と共に、手元に大きく影が出来てしまって、開けなかったのだ。



その影の原因に、うわ、というのが、黒子の第一の感想。

何を食べたら、が第二の感想。

黄瀬君と同じくらい、が第三の感想。




その人物は椅子をがたがたさせて座り込んだかと思ったら、すぐに机に突っ伏した。

この緊張感漂う教室ですぐに寝息を立て始めた彼は、中々に大物だと思う。




これは、なんというか、面白そうだ。

後ろの席でそわそわとしていれば、開きっぱなしの鞄から、ある1冊の雑誌が見えた。


それを見た黒子の好奇心は、さらにぶわりと膨らんだ。







授業は、案外難しくなかった。

それはというのも、ほぼ全ての授業で毎回毎回自己紹介をやらされたからだ。

昨日も担任にやらされたのに、どうして教科ごとにやらねばならないのだろう。

恐らく教室中の生徒がそう思っていただろうが、授業をやられるよりは、という気持ちの方が大きいのだろう。

誰ひとりとして、異は唱えなかった。



と言っても正直、自己紹介など特に言うこともない。

名前と、出身校と、趣味を言って、1年間よろしくお願いします、と付け加える。

大抵の人がそうだった。

何回繰り返されても、覚えたような覚えなかったような感じがする。

まあ皆似たようなものだろう。



それでも、唯一自信を持って言えることがひとつ。

僕の前の席のこの人は、僕と同じ趣味を持っていた。



(残念ながら、それは読書ではなかったのだが)









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