黄瀬は、4時間目のチャイムが鳴って直ぐ、全力で席から立った。

がたん、と大きな音を立ててイスが揺れた。


「よっし終わった!」

「黄瀬まだ終わってないぞー。」

「先生、オレ今から愛しの弟に会いに行くんで!」

「いやだから授業は、」

「じゃ!」

言うが早いが、黄瀬はとっとと教室から出て行った。

残された生徒は、黄瀬に兄弟居たっけ、と教壇に立つ担任に聞いていた。

それに首を傾げて、いたっけかなあ、と呟いた担任とクラスメイト達を、黄瀬は知らない。






1年の教室。

さすがまだマトモな授業を始めていないだけあって、チャイムと同時に終わっている。

黒子の教室を見つけて駆けよれば、廊下に居た1年生は、いきなり現れた上級生にぎょっとしていた。

学年ごとに上履きの色が違うため、すぐに何年生かわかるのだ。

しかしもちろん、黄瀬は全く気にしてなどいない。



「黒子っちー!」

迎えに来たよ、と開いていた廊下の窓から教室に身を乗り出した。

近くにいた生徒は、廊下に居た1年生同様、突然の3年生の訪問に驚いている。


「あ、黄瀬君。」

そう言った黒子の前には、黒子と話をしている生徒が居て。


友達と喋ってたなら悪いことしちゃったかな、なんて考えるよりも先に、

うわ、と言うのが、やっぱり黄瀬も第一の感想だった。



「あのですね、火神君もお昼買いに行くんですって。一緒に良いですか?」

「…え、あ、うん、…もちろん…。」

どもってしまったのは、決して嫌だからではない。

ただ、2つ下のはずの1年生が、オレとほんの数cmしか変わらない体格でそこに居るからだ。


決して低くはないはずの自分の身長。

同学年の人間をほとんど見降ろすこの身長と、ほぼ同じ目線の1年生が居るだなんて。



「火神君です。」

「…どうも。」


簡単に黒子に紹介されてぺこりと頭を下げた少年は、自分の二つ下、のはずだ。






とりあえず、と二人を連れて来たのは、小さな購買。

小さい故に、人だかりでとても買いづらい。



「見ればわかると思うけど、ここは食べ物だけ売ってる。」

「へえ。」

「ノートとか売ってるような場所は別のところだから、また今度案内するよ。」

もちろん、そのときは火神君も一緒においで。


そう言えば、うす、と照れたように火神は頭を掻いた。

最初はその体格にこそ驚いたが、わりと謙虚で、中々に面白い子らしい。


うんうん、人を見かけで判断しちゃいけないな。

黄瀬はそう考えると、人込みの中に背中を二つ押し込んだ。



火神の買った昼食の量に再び黄瀬と黒子が驚くことになるのは、この会話のほんの数分後。









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